恩師のリサイタル
おふたりはご夫婦で、私が高校の頃から、公私にわたってずっとお世話になってきた
文字通りの恩師です。
私は大学の頃から古楽に傾倒し始めましたが、やはりオペラ界の主流は19世紀以降ですから、
先生も弟子がそっち方面で活躍してくれることを願っていたのだと思います。
古楽の道を選んだ私でしたが、先生は変わらず温かい目で見守ってくださり、なにかにつけて
助け、ご指導してくださいました。
エネルギッシュで還暦を過ぎてもバリバリレッスンしてらっしゃった先生が、老人性うつになったと
道子先生からお聞きしたのは何年前のことでしょう。それはそれはびっくりしました。
けれども道子先生やご家族の努力の甲斐あり、琢也先生は見事復帰されて、今回のリサイタルと
なったのでした。琢也先生の忍耐と、道子先生の努力は、相当なものだったそうです。
もう70を超えた先生方の歌は、びっくりするほど艶やかでした。
歳を重ねられても、確固たる技術は健在で、豊かな才能というのはこういう歌手のことを
いうのか、と圧倒される思いでした。
そして、古楽の世界に身を置く自分は、もう先生から離れてしまったのではないかと
感じていたのですが、先生の歌を聞いて、あれもこれも、今自分が目指している技術は、
最初にお二人の先生が教えてくださったものではなかったか!と思い出しました。
以前先生が教えてくださったこと、習得できなかったけれど、どこかで覚えていたこと、
今になってその大切さが身にしみてわかり、習得しようと努力しているのでした。
声というのは、力を抜いて出すものだと、そして大切なのは技術だけでなく、その人の特性を
生かした「歌」を見つけていくことなんだと、最初に教え導いてくださったのは先生でした。
私はその教えに沿った道を選んで通ってきたのかもしれない、と思いました。
先生方のこれまでの長い長い道のりで、精進し続けられた日々が、大きなものとして
せまってきました。
レパートリーは古楽が中心になってしまったけれど、私も先生の弟子です、と
言わせていただいていいのかな、と思いました。
胸を張ってそう言えるように、門下のひとりとして恥ずかしくない歌を歌っていきたいと、
思いを新たにいたしました。
先生のお嬢さんたちや、門下の先輩方とも久しぶりにお目にかかり、
ちょっとした同窓会(?)のようでもありました。
ご無沙汰ばかりの私でしたが、みなさま温かく接してくださり、これも先生のお人柄の
なせるわざだと、感謝しました。